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お知らせ

2020.08.05

九大COIからの提言~COVID-19とともに歩む持続可能な地域創成の道筋~

九州大学持続的共進化地域創成拠点(COI)では、モビリティ、エネルギー、産業数学、そして、情報科学という4つの分野において、活気ある持続可能な社会の構築に向けた研究を推進してきました。
今回、我々の研究がwith コロナ時代においてどのような役割を担っていくのか、そのためには今後何を考えていかないといけないのかについて提言書としてまとめました。

COVID-19とともに歩む持続可能な地域創成の道筋

はじめに

100年に1度レベルとも言われる未曾有の感染症COVID-19が世界に広がり、数ヶ月が経とうとしています。2020年6月現在、全世界で680万人へと感染が広がっています。予防ワクチンや効果のある治療薬が待たれる中、各国でさまざまな取り組みがなされ、我々も2ヶ月に渡る自粛生活というものを経験しました。これにより、日本における感染拡大に歯止めがかかった一方、自粛による経済活動の停止は、経済活動の停止という2次被害を生んでいます。そのため、世界は、COVID-19と共存していく、with COVID-19(with コロナ)の時代に動き始めています。日本においても、自粛解除に合わせて「新しい生活様式」というものが政府から発表されましたが、今後、with コロナ時代においては、あらゆる場面で、我々がこれまで当たり前に行ってきた習慣に大きな変化がもたらされることになるでしょう。企業において、一気にテレワークが浸透したのと同様に、大学教育も、一気に、オンライン化が進みました。そして、人々は、自分の行動の意味や価値について考え、不要不急の外出や移動を控えるようになっています。この変化は、COVID-19が収束した後も、大きく我々の社会生活に影響を与えると考えられます。

モビリティ部会

まず、モビリティの観点では、今回の新型コロナウイルス感染症の広がりによって、人々の生活様式の少なからぬ部分が中断され、あるいは変更された(特にオンライン化した)結果、人々は、フィジカルな対面、体験、そしてそのための移動のもつ意味を、これまでの慣行を括弧に入れて再検討しつつあると言えます。モビリティ部会では、一方的に新しい生活様式を押し付けるのではなく、市民をはじめとしたステークホルダーとの対話と協働をとおして、新しい生活様式を反映した持続可能な移動のあり方を構想し、実現していきたいと考えています。これまでに、住民関与型運行を目指すグリーンスローモビリティを用いた交通システムの開発、住民参加型のインクルーシブデザインによる小型EVバスの開発、そして人々が多様な交通手段を選択できるようにするマルチモーダル情報提供システムの開発などを進めてきました。

今後はwith コロナ時代の要請を踏まえて、これらの課題の応用的実践へと着手します。たとえば交通にもまた3密問題(密閉・密集・密接)への配慮が求められます。多様な交通手段があることは、人々が密を避ける行動をとることを可能とします。あるいは、小型EVバスの参加型デザインにおいては、密閉を避けた開放的な車両デザインが検討されることとなるでしょう。いずれも、異なる価値の間のすり合わせが求められるものであり(密集により生まれる賑わいや、密閉によって可能になる空調)、多様なステークホルダーとの丁寧な対話が欠かせないと認識しています。

エネルギー部会

移動の意味、価値を考え、新しい生活様式とシフトしていくことは、エネルギーにも大きな影響を与えています。工場停止や外出自粛、リモートワーク、飲食店の休業により、電力需要が大きく低下しています。このため、この春は通常よりも多くの太陽光発電などの再生可能エネルギーに出力抑制がかかり、電力を捨てざるを得ない状況になっています。この課題を解決するため、COIでは再生可能エネルギーを水素として製造、貯蔵、活用する研究に取り組んでいます。水素は、水と電気を用いて水の電気分解により製造することができ、得られた水素は、水の電気分解の逆の反応を燃料電池内で起こすことで、電気と水を発生させることができます。しかも、その一連の過程で二酸化炭素を一切排出しないため、再生可能エネルギーを水素として貯えておき、必要な時に燃料電池を通して発電する環境に優しいエネルギーシステムを実現できます。

今後、リモートワークなどの働き方の変容と共に、オフィスの分散化などが一層進む事も予想されます。水素エネルギーはオフィスや事業所など中規模のエネルギー需要者のための電源施設としても活用できます。地方に分散するオフィスの電源としての再生可能エネルギー+水素エネルギーの活用が進めば、地域で作ったエネルギーを地域で利用する環境に優しいエネルギーの地産地消が生活様式の変容に合わせ実現できます。また、大規模発電所から独立した電源は企業が新型コロナウイルス感染対策と共に検討が必要な自然災害による事業の継続性を維持するために有効な技術となります。エネルギー部会では、今後もこのような技術の実用化に向けた研究を進め、エネルギーの地産地消の実現を目指します。

産業数学部会

産業数学部会では、これまで述べた、モビリティ、エネルギーの両方において用いられる、ビッグデータ分析に基づく需要予測、の研究に取り組んでいます。この研究領域では、コスト削減や業務効率化を図るため、高精度に需要を予測することが求められていますが、今回、新型コロナウイルス感染症の影響で、人々の考え方と行動が変化し、これまでの予測手法が当てはまらないケースが出てきています。例えば、電力需要予測を考えると、工場や公共施設の閉鎖、在宅勤務、飲食店の休業などにより、電力消費のパターンがこれまでと大きく異なり、従来の電力需要予測モデルをそのまま用いても高い精度で予測することが困難になっています。そのため、感染症危険情報レベルなどの環境の変化に応じた新たな予測モデルが必要になっています。しかしながら、新型コロナウイルス感染症による環境の変化が、どのように予測に影響するのかというデータの蓄積がないため、従来の機械学習の延長ではなく、物理モデルや統計モデルなど、いわゆる人間の「知恵」をうまく盛り込んだ統計モデリングが必要となると予想しています。産業数学部会では、数理統計・数学を活用し、急激な環境変化にも適用しうる、柔軟かつ一般的な予測モデルの構築を目指しています。

情報科学部会

これまで、新型コロナウイルス感染症によって人々の考え方や行動が変わったことによる、モビリティやエネルギー、そしてそれらの需要予測に与える影響について述べましたが、情報科学部会では新しい生活様式へのスムーズな移行を支援するという研究に取り組んでいます。情報化が進んだ現代社会では、人々は常に情報のシャワーを浴び、その中から取捨選択をして行動を決定しているといっても過言ではありません。もし間違ったニュースが流れれば、あっという間に社会問題を引き起こしてしまうということも、トイレットペーパーの買い占めといった実際の社会現象から理解できると思います。一方、情報化の恩恵としては、見えなかったものが見えるといったことが挙げられます。例えば、CO2センサやWiFiの通信データを分析すれば、そこにいる人の量、すなわち、混雑度を定量的に測ることができます。そこで、情報科学部会では、伊都キャンパスおよび最寄り駅のバス停の混雑度をセンサで計測し、利用者の時差通勤・時差通学を促す混雑度可視化システムを開発しています。今後は、バス車内、食堂といった密になりやすい場所にもセンサを設置していき、公共交通機関を利用したり、公共空間に集まったりする際に、可能な限り密を回避すると行った行動を自主的に行うことができると考えています。また、提示された情報に対して利用者がどのような行動を取ったかという行動パターンを蓄積していけば、産業数学部会と連携して未来の混雑度予測を提示したり、モビリティ部会と連携して別の交通手段を提示したりすることも可能になってくると考えています。このように情報科学部会では、with コロナ時代に即したICT見守りを実現していきたいと考えています。

おわりに

本提言では、九州大学COIを構成する4つの部会、それぞれの立場から、新しい生活様式の実現を後押しする様々な研究を土台とした今後の展望について述べました。新型コロナウイルス感染症COVID-19は、甚大な被害をもたらした感染症ですが、我々人類に対して、これまでの生活様式や慣習を見直すきっかけを与えているとも言えます。今後、九州大学COIでは、人々の行動・考え方が更に多様化していく中で、with コロナ時代を見据えた持続可能な共進化地域の実現を探求していきたいと考えています。

■混雑度可視化システム 
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